20.スタンレイはさらに遠い

 北部ハイブッシュ系ブルーベリーの品種改良の歴史において、これほどまでに重要なポジションに位置する品種スタンレイが、なぜ日本のどこにもないのか、私には、その事実が不思議で仕方がなかったのでした。

 ほぼ同時期に導入されたと思われる、やはり古い品種であるランコーカス、ジャージー、ジューン、デキシー、ペンバートンなどは、それなりに各地域で継承されているにもかかわらず、どうしてスタンレイだけが、他品種に更新されてしまうのでしょうか。また、日本における栽培の現実問題として、真っ先にリプレイス対象となるような品種が、親品種として、どうして、あれほどまでに多くの優秀な品種を生み出すことができたのかも全く理解に苦しむものでした。

 ブルーベリーにおける営利栽培上の優秀さと、交配親としての優秀さとが、それほどまでにかけ離れた資質であるとは、私にはどうしても考えがたいのでした。これが、私の考える「スタンレイ・最大の不可思議」だったのです。

 元長野県果樹試験場長小池氏との会話の中で、氏の記憶の中には、当時栽培し観察していたスタンレイの記憶が鮮明にあると語ってくれました。だから、日本のどこかにスタンレイが存在していれば、その同定は可能であるというのです。

 しかし、小池氏は、「だからといって、そのスタンレイが本物のスタンレイであるかは、それとはまた別問題である」と語っていました。つまり、当時、小池氏がスタンレイとして扱っていた品種が本物のスタンレイだとする証拠はどこにもないのだというのです。やはり、スタンレイを特定すること自体が、さらに遠く感じられたとともに、ブルーベリーの品種問題の現実を突きつけられることとなったような気がしました。

 そして、それは当時現場の第一線で導入当初からの品種の混乱ぶりを実際に体験された方の正直な意見だと私は感じました。また、これこそが、まさにブルーベリーという果樹の宿命的な特性だといえるのかも知れません。

 結局、日本における北部ハイブッシュ系ブルーベリーの黎明期に関わった長野県信濃町においても、スタンレイの存在は確認できませんでした。それどころか、そこへ辿り着く道のりは長く、闇はさらに深くなったようにすら思えたのでした。