31.品種Yとは

 品種Yは、実際に一般マーケットでは、かなりの流通量がある品種です。しかし、その流通の仕方が尋常ではないのです。この品種Yは、時によって、あるいは地域によって、様々な品種名が付与されて流通している極めて珍しい存在なのです。つまりは、複数の品種名を持ちながらも、結局は同じ品種であるという、いわば七変化品種なのです。

 その多くはスタンレイとして扱われてはいるものの、ある時はブルーレイとして、そしてある時はアーリーブルーとして、そしてまたある時はバークレイとしても販売されている品種なのです。この傾向は、一般の園芸店、大規模園芸店、ホームセンターなどでは特に顕著で、21世紀になってからも、むしろ拡大しているかのようにも感じられます。

 なぜ、この品種だけが特に様々な品種名を付与されて、これほどまでに一般に流通しているのかが、最初は全く理解に苦しむものでした。同様に信頼するに足る親株が存在していないにもかかわらず、一般によく流通している品種にジューンやコンコードがありますが、ジューンは別の品種名が付与されて出回ることはあまりないのです。また、コンコードも、幾つかの生産農家では、いまだ栽培が継続されており、市場に出回る苗木との一致の確率もかなり高いのです。よって、これらの品種は、事実上さほどの混乱が見受けられないのです。だからといって、もちろん一目でわかるような目立った特徴があるといえる品種ではないのです。

 だから、なぜ、この品種Yだけが、これほどまでに多くの品種名を付与されて販売されることとなったのかに大きな疑問がありました。しかし、多くの異品種の混入を前提としていた日本のブルーベリーの導入の歴史を考えるならば、この品種Yは、複数回に渡って、それもその度に別の品種名が付与されて日本に導入されたと考えるのが、この現状を説明するに最も納得がいく答えであるような気がしました。そして、実際にそれを裏付けるかのように、この品種Yは、群馬、東北、長野の事例から、日本への導入において、少なくとも1回は、スタンレイとして導入されたものであることが明らかとなったのでした。

 そして、また以下の東京農工大学の事例から、やはり初期の段階において、ブルーレイとして導入されたことも事実だたのです。1951年以降、アメリカより日本に導入された北部ハイブッシュ系品種のうちブルーレイ、ブルークロップ、アーリーブルーが異品種であったことは、東京農工大学や長野県果樹試験場、そして同じく長野の熱心な種苗会社や生産農家の努力によって、その後に明らかになりました。そして、最初の誤った品種の導入からなんと20年以上も経った 1974年になって、ようやくニュージャージー州立大学から東京農工大学に、この3品種を含む11品種の正確な穂木がもたらされたのでした。そして、これ以降、東京農工大学では、初期の誤ったブルーレイを、通称「オールドブルーレイ」として扱ってきたという経緯があります。

 そして、今回品種Yと特定された品種と、この通称「オールドブルーレイ」とされてきた品種が、同一のものであることがわかったのでした。つまり、品種Yは、日本に初期導入されて以降20年近くもの間、ブルーレイとして扱われて来たことになるのです。本来、大粒種のはずのブルーレイが、なぜ大粒ではないのかと、多くの生産農家が疑問に思ってきた品種が、実は品種Yだったということになるのです。そして、その長年にわたる誤った品種の影響は、現在でも大きく尾を引いているのです。

 なお、この事実をさらに詳細に考察するならば、初期導入の品種群の中には、スタンレイとされた品種Yと、ブルーレイとされた品種Yとが重複して存在していたことになり、ここにも大きな疑問が残ることになります。つまり、日本では、長い間、全く同じ形質の品種を別々の2品種として扱って来たことにもなるからなのです。

 しかし、この事実も、ブルーベリーの栽培自体にも苦慮していた当時を勘案すると、やむを得なかったのではないかと想定されます。まさに、ブルーベリーの黎明期であったがゆえに、仮にそのような観察眼があったとしても、母国アメリカからもたらされたブルーベリーの品種ラベルを疑う余裕などなかったと考えるのが妥当ではないでしょうか。以後の多くの苗木生産者の増殖における品種混乱の最大の原因に当てはめても、親株の観察よりも品種ラベルを信じることが優先されるという心理は、品種間異差が極めて微妙で、その見極めが難しいブルーベリーにおいては、全く想像に難いことではないといえるでしょう。

 以上が、様々な品種名を付与され、一般のブルーベリー苗木マーケットで意外と見かけることの多いこの品種Yが、日本で辿った数奇な道筋だったといえるのです。

 しかし、この品種Yが、かつてスタンレイおよびブルーレイとして扱われてきたことは、その導入経緯からある程度やむを得なかったといえそうなのですが、さらにアーリーブルーやバークレイなどその他の品種名で、いまだに流通していることは、苗木の増殖段階における怠慢あるいは不注意であるといわざるを得ないでしょう。

 ところで、このように確定された品種Yの特徴はというと、枝質は固く、綺麗に開帳するため樹形が非常に整いやすく、果実は、豊産性の中粒で甘味が強く酸味が少ないため、果実品質としては、それなりに美味しい品種であると評価できます。しかし、その他には際だった優位性が見られないため、後の改良品種と比較するならば、やはり今後わざわざ選択すべき品種とはいえないでしょう。

 さらに、外形的特徴は、見た目として、葉が美しいイメージを与えるとは言い難い最大の欠点があります。しかし、このマイナスイメージが、品種Yを特定する最も大きな特徴ともいえます。新梢時点の葉は、黄色味がやや強く非常に薄く感じられるのも特徴です。また、この薄い葉質のためか、強い日差しには部分的に若干褐色を帯びてしまいます。さらに、成長した葉は、順調な生育であるにもかかわらず、葉の色が一定でなく若干のクロロシス症状であるかのように見えるのも際だった特徴なのです。また、葉の展開後は、多くの葉が裏側にたわむ傾向が顕著です。