名著「ブルーベリーの栽培」

 すでに絶版になった書籍なのですが、1984年に出版された「ブルーベリーの栽培」(誠文堂新光社)という名著があります。その239ページにも及ぶ内容は、それまでの日本のブルーベリーの歴史を語り尽くすとともに、多くの示唆に富んだブルーベリーのバイブルといってもいい内容です。その一部からは、当時ブルーベリー黎明期の先駆者たちの「志」、そして、ブルーベリーの生産・流通・販売における「あるべき姿」、さらには現在のブルーベリーマーケットが直面している課題や問題点すらも、すでに予見されているように感じます。

 私は、日本で出版されているほとんどすべてのブルーベリー関連の書籍に目を通しましたが、この「ブルーベリーの栽培」の内容を凌駕する書籍は見あたりません。14人もの執筆者による共著ではありますが、それまでの各地域での経緯や実情がまとめられたいわば事例集なのです。内容的には、若干の誤解もありますが、真実でないことをあたかもブルーベリーの定説であるかのようにまとめあげた昨今の栽培ノウハウ本よりは、はるかに有意義な資料的価値のある書籍です。

 この書籍が出版された1984年、日本のブルーベリー栽培と研究は、すでにある程度のレベル(高み)に達しながらも、その「進歩」は止まってしまったか、あるいは後退しているかのごとく感じるのです。この書籍で指摘された多くの仮説は一向に検証もされず、だた一定のルールに従った栽培が行われただけ。ここで予測されていた危惧に対しても、何の対処もなされず、その問題点に直面しているのが実状といえるでしょう。

ブルーベリーの栽培 私は、この書籍から多くの情報を得ただけでなく、物事を見つめる「エッセンス」を学びました。ただ、私がそう実感できたのは、唯一信頼するに足ると感じたこの書籍の内容を徹底的に吟味し、日本各地の産地を巡り、ここに書かれていた仮説のみならず自らの仮説も合わせて検証したからです。実際のところ、この書籍の内容にさえも認識の違いや誤りはあるのです。

 既成の事実であるかのように言われていることや仮説を再検証し、さらなる真実や仮説が進歩を生み出すのです。それは、学者や研究者だけがやることではないのです。むしろ、そういった先生と言われている人たちが本来なすべき事を怠っている事例は意外にも多いのです。いくつもの仮説を導き出すことが難しいがゆえに、一つの仮説を真実と思い込むことは多いようです。あるいは、一つの仮説しか立てることができないから、実際に検証してみてそれが崩れた時に次の仮説を立てられないのかもしれません。

 英語で仮説を検証するとは、「hypothesis verification」「hypothesis and inspection」「hypothesis corroboration」「working hypothesis」というそうです。最後の2つはなんと興味深い表現でしょう。その積み重ねからしか真実は生まれないのです。

 その一方で、私は、そんなことすら全く意識したり考えることもなく、坦々と日々の作業をこなし、このブルーベリーという厄介な果樹を相手に「本当に美味しいブルーベリー」を提供している数少ない前向きな生産農家の人たちに、深い敬意を感じています。