ブルーベリー「挿し木」の真実

 私は、ブルーベリーに対してと同等の興味と関心を持ってワインに傾注したことがあります。そして、その経験と知識から再びブルーベリーを見た時、古代ローマ時代の遙か昔から世界的に栽培されてきたブドウと、いまだ100年程度の歴史しかないブルーベリーの違いを痛感したことがあります。また、一方で、同じ果樹でありながら「接ぎ木の真実」でも述べたとおり、他の果樹に対する無頓着さから共通するはずのノウハウが全く生かされていないことを痛感します。

ワインに関する書籍

 フランスブルゴーニュ地方のピノノワールというブドウ品種で造られるロマネコンティ(Romanee Conti)や、ボルドー地方のカベルネソービニヨンを主に造られる「シャトー・ラフィット・ロートシルト(Chateru Lafite Rothschild)」は、市場価格で1本(750ml)100万円を超える値がつくものがあります。芸能人格付け番付というテレビ番組で、このクラスのワインと1本1000円に満たないテーブルワインを飲み比べて、多くの芸能人がその識別ができないシーンをよく目にします。おそらく、多くの消費者にとっても「ブルーベリーはブルーベリー」でしかなく、系統や品種の違いはもちろんのこと、接ぎ木栽培での違いもわからないことでしょう。しかし、わからないのはある意味、興味がないからでもあるのです。興味があれば、もっといいものをたくさん享受したいという欲求も高まり、その違いや真の価値というものがわかってくるのです。

 実は、2007年まで私が一番嫌いなアルコール飲料とは赤ワインだったのです。その理由は、それまで数万円を超えるワインを体験したことがなかったことと、ブドウ品種や製法、そして熟成という概念に全く無頓着だったからなのです。そしてなによりもワイン自体に興味がなかったからなのです。しかし、30余年を経過したヴィンテージワインをはじめて口にした時、自らが抱いていたワインのイメージがガラリと変わったのでした。

ヴィンテージワイン

 もちろん、高級なワインほど美味しいとは限らないのですが、価格とは価値に比例するのも事実です。それは、ワインの場合もブルーベリーと同じように「品種選択」をはじめとして「栽培技術」「収穫技術」に依存します。また、アルコール飲料であることから「醸造技術」にも依存し、高級品の宿命から「ブランド力」にも大きく左右されます。そして、なによりも長年の熟成を経て、別なものへと変化するというワインのみが持つポテンシャル、これこそが最大の付加価値を生み出すのです。そして、それは「畑」が持つポテンシャルが最大の要因となるのです。

 さらに、このワインで極めて興味深かったのが、素材となるブドウ品種の「クローン」という概念とその多様さだったのです。営利栽培においても、趣味の栽培においても、取り違えさえなければ挿し木によって全く同じ形質の品種が増殖できると考えているようですが、これは大きな間違いなのです。挿し木で全く同じ品種の同じ形質が確実に引き継がれるとは限らないのです。

 前述したブドウ品種であるピノノワールやカベルネソービニヨンには、3桁に上るクローンナンバーが存在します。その中には、悪名高い(ワインに適さない)とされるクローンナンバーのついたものから、1本100万円を超えるワインの素材として使われるクローンまでもが存在するのです。これら3桁も存在するクローンは、そのすべてにDNA検査を施しても、全く同じDNAであることが証明される同一品種なのです。つまり、挿し木での増殖は、微妙か否かは別にして必ず同じものができるとは限らないのです。

ブルーベリーの挿し木

 それが、クローンという概念なのですが、すべてのブルーベリー栽培に携わる誰もがこの真実を知らないか、無頓着なことでしょう。私は、たまたまワインに興味を持って、その素材であるブドウからこのことを知ったのですが、ブルーベリーの研究者や専門家はおそらくこの事実を知っているはずです。そして、もしもこの事実を軽視しているならば、ブドウという果樹が辿ってきた輝かしい歴史を後追いすることなどけっしてできないことでしょう。それゆえに、果樹においては品種の「母樹園」なるものが極めて重要で、母樹からのみ差し穂を供給することによって、先のクローンの多様性を極力狭めることができるのです。

 しかし、今さらそんなことを理解しても、もはや日本に広がっているブルーベリー品種は、おそらく本来の母樹から遠く離れた子孫のまた子孫(クローンのクローン)であるとともに、悪名高いレベルから美味しいレベルまでが一緒くたに増殖されてきたことでしょう。これは、人間の性(さが)を考えるならば、あるいはビジネスとして捉えるならば、品種の正確性を強調する種苗業者でさえ、すべて母樹園の親木からのみ差し穂を取っているなどということは考えられないでしょう。

 ワインをきっかけとして上記の真実を知った時、私は各地の視察で形質の違う様々な「スパルタン」に出会ったことや、同じ畑の中に1本だけ早生の「コリンズ」があったりした事例に対し、やけに納得がいく気がしたのでした。また、1995年リリースで、日本ではもちろん2000年以降になってから販売されるようになった南部ハイブッシュ系の「スター」でさえも、その特徴的な萼あ部分には、はっきりと認識ができる違いがあるものが見受けられます。つまり、リリースから間もない日本でさえも、明らかに形質の違うスターが、すでに存在しているということなのです。

 以上のような事例は、リンゴやモモなどでいう「枝分かれ」といってもいいほどの違いなのではないでしょうか。日本の種苗登録制度では、「枝分かれ」による形質の違いがはっきりと認められれば、新たな品種登録が可能になっているはずです。そう考えると、すでに現時点でのブルーベリー品種は、そのようなレベルに分化しているといってもいいでしょう。

 今後、このような形質の異なるクローンの存在によって、品種内での様々な特性変化があらわれてくるならば、「本当に美味しいブルーベリー」比率を高めていくには、このような事実さえも前提として品種問題を考えていく必要も出てくるはずです。しかし、現在の日本のブルーベリー環境とその認識レベルを前提とした場合、私のこのような考えや指摘は、おそらく現実とは遠くかけ離れた問題提起にしかならないでしょう。