単一品種ブルーベリージャム(10品種)の試作

 私は、常に自らの興味と関心を充足させ、疑問を解決しようと試みます。それは結果として誰もやらないことをやることに繋がるようです。私のブルーベリーに対する究極の目的は「本当に美味しいブルーベリー」に辿り着くことで、その手段のひとつが品種の同定であり、その成果物が「ブルーベリー大図鑑」の制作だったのです。また、それは私自身にとって、あまり時間をかけては意味がないのです。極力短期間で目的を達成しなければ意味がなかったのです。

 そして、もうひとつの興味が、加工品としてのブルーベリーのポテンシャルです。それが具体化されたものは、ブルーベリージャムやブルーベリーパイ、あるいはブルーベリーヨーグルトやフローズンブルーベリーヨーグルトドリンクなどがありますが、まずはジャムから始めてみたのでした。ブルーベリーに興味を持ち始めた当初、2004年にはじめて長野県信濃町の伊藤ブルーベリー農園を訪ねた時、ランコーカスのジャムが一番美味いと聞かされて以来(実際には体験していませんでした)、その真偽のほどを確かめてみたいと思っていたのです。

ランコーカス

 しかし、それ以降も、私が考える究極のブルーベリージャムは、どこからも生まれては来ませんでした。当の伊藤ブルーベリー農園でさえ、ブルーベリージャムは販売しているものの、さすが単品種によるジャムまでは生産しませんでした。一方、2005年に取材で訪れた青森県中里町(現中泊町)は、独自の発展を遂げた地区でここではハーバートがジャム素材では一番であるという評価を聞きました。実際、そのハーバート単品種のジャムは、かつてない食感を感じさせるものでした。それは、一般にいう粒状感とは全く別なもので、加工品であるにもかかわらず、その中に生のブルーベリーを感じたような気がしたのを鮮明に憶えています。これも、私がブルーベリー品種にこだわっている多くの理由のひとつでもあります。また、宮城県蔵王町の蔵王ブルーベリーファームでは、ジャージーとルーベルの2品種に限っては、単品種での生産に踏み切っていました。これは、その顧問でもある研究熱心な横田氏の判断によるものです。

 私の個人的試みの目的と営利生産農家の目的は、ともに「本当に美味しいブルーベリージャム」に辿り着くことなのでしょうが、その手段とプロセスが全く異なるようです。私は、その手段として良きにせよ悪しきにせよ各ブルーベリー品種の特性をまず押さえたいと思うのですが、商売で携わっているととどうしても完成形の製品ありきからの発想となるようです。それは、かつて接してきた多くの生産農家の方向性から感じたことでもあり、またジャム作り専門店である長野県野尻湖畔にあるぼーしや池宮理氏にジャム作りを依頼した時にも感じたことでした。

ぼーしやジャム工房

 私のオーダーは、10品種の各々を煮詰める時間も砂糖の量もすべて同じ条件でジャムをつくって欲しいというものでした。もちろん最終的には、そのオーダーでジャムが造られたのですが、ジャム作りを生業としていると、どうしても素材を生かした作り方になり、煮詰める時間、火加減、かき混ぜ方、そして砂糖の量をその時のベストで調整してしまうようなのです。しかし、そうすると各品種のマイナス点がジャム作りのテクニックによって打ち消されて、各品種の真実を知りたいという今回の私の目的が達せられなくなってしまうのです。おそらく、職業柄、常に美味しいものに仕立てようという意識が必然的に働くとともに、こういう依頼などかつてなかったことでしょう。

 そんなわけで、ウェイマウス、アーリーブルー、コリンズ、スパルタン、ランコーカス、ブルークロップ、ブルーレイ、ジャージー、ディクシー、品種Xの北部ハイブッシュ系10品種と、さらにはラビットアイ系4品種の客観評価可能なジャムの試作品が完成したのでした。