ブルーベリー新品種についての考察

 私がブルーベリー大図鑑を制作することとなったきっかけは、ブルーベリー品種の数とその混乱にありました。その時点でアメリカのUSDAをはじめとした機関で正式に種苗登録されているブルーベリーの品種はすでに200種を超え、日本で入手可能な品種でさえ100を超えていました。

 そして、日本でも幾つもの種苗登録が行われ、品種は増大の一途を辿ることとなります。しかし、大粒のブルーベリー品種はすでに500円玉サイズを超えていたとしても、いまだ大粒のブドウを超える品種は登場していません。また、一般的な果物と同様な流通と販売において、それに耐えうる保存性に優れたブルーベリーも、結局のところ誕生などしていません。新たな品種に期待をしてみたところで、1950年代にリリースされた品種と五十歩百歩というレベルのものが発表されるに過ぎません。

 私が、ブルーベリー大図鑑改訂の無意味さを感じたのはここにも大きな要因があります。さらに、その後の日本においては、解説するに値しないあきらめに満ちた現実を感じさせるような新品種がいくつも誕生したのでした。

ブルーベリーとブドウ

 私がブルーベリー大図鑑執筆時に危惧していたことがあります。それは、ブルーベリーの研究育種機関であるアメリカの大学では毎年「新品種の数」を競っているのではないかという疑念でした。つまり、既存品種と比較して優良か否かではなく、違ってさえいれば次から次へと品種登録しているようにさえ感じた時期がありました。しかし、詳細に調べてみると、実際にアメリカで品種登録がなされた品種は、少なくとも長年にわたる試作期間を経ていることがわかりました。それは、最低でも15年程度、長い場合には20年を上回る試作を行い、異常気象も含めた様々な環境への適応性をテストされた後にリリースされているのでした。さらに、広大な農地を持つ農家での事前の試作も長年にわたり行われているのが実情だったのです。おそらく、そこには開発者としての矜持やプライドがあるのだろうと私は推測しています。品種間異差の微妙さから生じた私の危惧は、少なくともアメリカにおいては杞憂であったといえそうです。

 それに引き替え、日本ではまさに自らの名を馳せる名誉欲のためか、あるいは自己満足のためか、はたまた冥土の土産であるかのように感じさせる新品種の登録が行われている気がしてなりません。そして、それは、農林水産省品種登録ホームページにアクセスし、品種登録の詳細から品種登録までの試作期間を見れば一目瞭然だといえるでしょう。

 品種登録の条件として「特性の安定性」という概念があるのですが、この基準があまりにもいい加減なのです。さらに、この試作期間さえも自主申告となっているのには、驚きを禁じ得ません。さらには、この試作期間には全く触れてもいない品種さえも存在する有様です。アメリカの事例と比較するならば、試作を実施していない品種など論外だといえるでしょう。したがって、気候の異なる様々な地域での試作が実施されたものなどは皆無に等しいのではないでしょうか。その大部分は、極めて限定された自分の畑での自己評価でしかないのでしょう。さらに、すでに海外で種苗登録されいる品種が、日本において再度種苗登録された記録があるものなどは、おそらく産業的な意図から生じたもので極めて形式的かつ例外的な事例といえるでしょう。

 日本とは比較にならない広大な面積を誇るアメリカが、国や州をあげて取り組んでいるともいえるブルーベリーの品種改良の歴史でさえ、いまだ前述したように大粒のブドウを超える品種は登場しておらず、一般的な果物同様の流通性に優れたブルーベリーも誕生していません。そのような中で、日本におけるこんなレベルでの種苗登録が、私にとってはあきらめに満ちた現実であるとともに恥ずかしくさえ思えるのです。

 このような情けない事例の例外としては、長野県小町園が種苗登録した「じんば青」「うつぎ青」「えぼし青」があげられます。「じんば青」と「うつぎ青」は、ともに15年、「えぼし青」に関しては23年の試作期間を経て種苗登録に至っています。さらに、小町園では全国各地の信頼おける生産者に無償で苗木を送付し、その安定性の確認を実施していたことを私は知っています。また、群馬県の「おおつぶ星」「あまつ星」「はやばや星」は、試作期間が10年であり、私自身の評価としては、ややフライング気味だと考えていますが、研究機関としての様々な事情もあったのだろうと予測されます。実際のところ、話題性としては群馬県の活性化に貢献したことは間違いないのでしょうが、既存品種に対し突出した優位性が発揮されている事例を私は知りませんでした。しかし、私が2009年に福島県を訪問し試食した際には、あまつぶ星が予想外の健闘をしており、既存品種比較で上位の印象を持ったことをあげておきましょう。

 なお、参考までにアメリカUSADAの種苗登録品種で、特段の事情により試作期間がわずか6年と短かった品種に「デキシー(1936年発表)」があります。これもブルーベリー大図鑑にその経緯が詳細に記してありますので参照ください(P.70~)。これは開発者としてのプライドが感じられない日本の事例とは全く事情の異なる「美談」であったと私は評価しています。

 また、ブルーベリー大図鑑の「ボーナス」の解説の中で(P.41)、私はこのような日本のブルーベリー種苗登録の問題点をすでに指摘していたのですが、その予想は残念ながら当たってしまったようです。新品種の種苗登録に際しては、是非とも開発者としての矜持やプライドを持って欲しいものです。