ジャムの糖度(JAS規格)について

 私は、JAS規格(日本農林規格「Japanese Agricultural Standard」)によって、ジャムとされるものの糖度が決められているということを、つい最近まで知りませんでした。1988年に改訂された現在のJAS規格の定義では、糖度40%以上のものがジャムとされているそうです。改訂以前の1968年からのJAS規格では、なんと糖度が65%以上と定義され、時代のせいもあってか砂糖だけを使用した糖度の高いものほど高品質だとされていたそうです。つまり、JAS規格では、糖度が40%以下のものは、製法や形状がジャムであったとしても、ジャムの定義には入らないことになるのです。

 ここでは、JAS規格そのものを問うのではなく、ブルーベリージャムの糖度ということだけに限って言及してみたいと思います。実は、これもエコニコ農園から私の元に届いたブルーベリージャムがきっかけで、久しぶりにブルーベリーについて考えてみようと思ったことが発端だったのです。エコニコ農園の大和田氏は、自信作のひとつである無加糖のブルーベリージャムを製品化するにあたり、本サイトの「『ジャム』と『コンフィチュール』の違い」を参考にして、JAS規格外となってしまうこの製品には「ジャム」ではなく「コンフィチュール」の名を冠しようと思っているということでした。つまり、消費者の健康志向の高まりによって、JAS規格におけるジャムの定義が、ようやく1988年に糖度65%から40%に引き下げられたにもかかわらず、現状では、それでもブルーベリー関与度の高い生産者や消費者にとっては、まだ甘過ぎる場合が多いという現実があります。実際、美味しさを追求すると本来はもう少し糖度を控えたいのに、このJAS規格の存在によって、生産者には低糖度とされる40%ぎりぎりに調整する努力が求められたり、この自信作のひとつである製法上も外見上もジャムである「無加糖」製品は、JAS規格上では「ジャム」とは表記できないものになってしまうのです。

 これを知った時、不合理な形式や基準、無意味な定義や定説に対して反発を強めてしまう私は「『JAS規格外』ブルーベリージャム」という発想が頭に浮かび、これを大和田氏に提案してみたのでした。私の考えは、「糖度40%以上」という規格を逆手にとって、あえて目立つように「(糖度のみ)JAS規格外」という表示をしてみたらどうかという考えだったのです。そして、「私たちが本当に美味しいブルーベリージャムを作るにあたって辿り着いた結論は、JAS規格の糖度40%以上という規格に準拠しないというものでした」なんていう説明をラベルの裏側にでも入れたらどうかというものなのです。なぜなら、それ以外は「自社農園産」「オーガニック」「手作り」などすべてにおいての自信作であるはずのジャムなのですから、一般的イメージとしての認知度の高い「ジャム」という呼称を、わざわざ別の表現に変える必要など私の論理にはなかっただけのことなのです。

 この件をきっかけに、私は学生だった頃、「『検定不合格』日本史教科書(家永三郎著)」という書籍を買ったことを思い出しました。このブルーベリージャムと教科書は、けっして縁遠い存在などではなく、私の中ではこのふたつがしっかりと繋がっているのです。ギネス記録に登録されるほど長い裁判となった家永訴訟は、最終的には検定自体が違憲か否かというあらぬ方向に行ってしまったような気がしますが、そもそもは著者である家永氏にとっては、自らが執筆した教科書が検定で不合格にされるいわれはないという歴史学者としての「信念」が発端であったはずです。私は、検定で不合格となった書籍は、教科書で問題ないと思いますし、無加糖であってもこの製品はジャムで問題ないと思うのです。どこかで勝手に定まってしまった規格や基準が、むしろ現実とのギャップを生んでいるだけのことだと思うのです、ただし、私がこのふたつに関連性を感じたのは、やはり広告やプロモーションに携わっているという職業柄もあって、「検定不合格」というキャッチは、出版社サイドの素晴らしいプロモーション戦略のひとつだと感じ取ったからでもあるのでしょう。

 私のような異端的発想のない純粋無垢な生産者の方々は、わざわざ「JAS規格外」なんて発想もしないでしょうし、実行もしない方がいいのかも知れません。しかし、自らの「信念」があるならば、この「逆手プロモーション」ともいえる発想を、どなたでも自由に使ってチャレンジしてみていただいてよろしいかと思います。

 ただし、この「信念」という言葉は、自らの勝手な思い込みを正当化するために使われることも多々あるので、客観性を欠くと独り善がりに陥ってしまう意外にも危険度の高い性質の言葉なので、そこにも十分な配慮が必要かと思います(2015年秋)。